第5章:生徒の本音を引き出す「傾聴」とは?教育現場で使える5つの聴き方

いつもご覧いただきありがとうございます。
コーチングですべての中高生に選択肢を与える会社、合同会社ドドド代表の沖津です。
学習塾経営をしながら、全国の学習塾の講師や学校の教員の方々を対象に、コーチング研修をしています。
コーチングの三大スキルといわれているのは、傾聴・承認。質問のスキルです。今回は、そのうちの傾聴のスキルについて詳しく紹介していきます。
この記事で分かること
・傾聴とは何か
・会話と対話の違い
・聴くことと待つことが傾聴
・MPRという傾聴のスキル
・その他の傾聴のスキル
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生徒との面談で、
「最近、勉強どう?」
と聞いたら、
「普通です」
で終わってしまった。
「何か困っていることある?」
と聞いても、
「特にないです」
と返ってくる。
先生としては、生徒のことをもっと知りたい。
悩みがあるなら相談してほしい。
本当は何を考えているのか聞きたい。
それなのに、なかなか話してもらえない。
こうした経験がある先生は、少なくないと思います。
そんなとき、
「もっと良い質問を考えなければ」
と思うかもしれません。
しかし、生徒から本音を引き出すうえで、質問より先に身につけておきたいスキルがあります。
それが「傾聴」です。
僕たちは、教育コーチングにおいて、質問の上手さ以上に
「この先生には話しても大丈夫」と思ってもらえることの方が大切だと考えています。
どれだけ優れた質問をしても、生徒が、
「どうせ否定される」
「ちゃんと聴いてもらえない」
「早く答えなきゃ」
と思っていたら、本音は出てきません。
まず、話したくなる空気をつくる。
その土台になるのが傾聴です。
そして傾聴のスキルは、1回や2回やったところで、変化は見られません。
少なくとも1ヶ月、本来であれば3ヶ月しっかり継続して活用することで、変化を感じられます。
傾聴とは「言葉」だけを聴くことではない

僕たちの研修では、傾聴を、
「相手の言葉だけではなく、仕草や姿勢、表情や声のトーンなどにも意識を向けて、すべてを聴き取ること」
としています。
そして傾聴することの目的は、生徒に気持ちよく話してもらえる空気をつくることです。
例えば、生徒が、
「特に、分からないところはありません」
と言ったとします。
言葉だけを受け取れば、
「分からない問題はなく、スムーズに進められているんだな」
と判断できます。
でも、その生徒が目を合わせず、小さな声で、少し間を空けながら、
「……別に、大丈夫です」
と言っていたらどうでしょうか。
同じ言葉でも、受け取る印象は変わります。
もしかすると、本当は不安があるのかもしれません。
話したいことがあるけれど、まだ言える状態ではないのかもしれません。
もちろん、表情だけを見て、
「絶対に何か悩んでいる」
と決めつける必要はありません。
大切なのは、
「言葉以外にも何か伝わってきていないか」
と意識を向けることです。
言葉だけを聞くのではなく、その人全体を聴く。
これが、傾聴の出発点です。
「会話」ではなく「対話」をする

教育コーチングは、
「言葉のキャッチボールを『会話』、心のキャッチボールを『対話』」
だと考えます。
そして傾聴とは、対話をすることです。
僕は、この違いがとても大切だと思っています。
例えば、
「今日学校どうだった?」
「別に普通でした」
「部活は?」
「疲れました」
「勉強は?」
「まあまあです」
「じゃあ宿題やろうか」
これは、言葉としては成立しているかもしれません。
でも、生徒が何を感じているのかは、ほとんど分かりません。
一方で、
「今日学校どうだった?」
「疲れました」
「そっかー、疲れたのか」
「はい。今日体育祭の練習が長くて」
「そうだったんだ。いつもより疲れてる感じするね」
「そうなんですよ。しかも、そのあと部活もあって」
このやり取りでは、生徒の言葉をきっかけに、その奥にある状態を少しずつ受け取っています。
先生が次に話したいことへ急いで進むのではなく、
「今、生徒が何を伝えようとしているのか」
に意識を向ける。
それだけでも、会話は対話へ変わっていきます。
「待つこと」も傾聴のスキル

傾聴で意外と難しいのが、「待つこと」です。
生徒へ質問をして、少し沈黙ができる。
すると先生は、
「質問が難しかったかな」
「何か補足した方がいいかな」
と思い、
「例えばね……」
と話し始めてしまいます。
その瞬間、生徒も、
「あ、先生が話すんだ」
と考えるのをやめてしまうことがあります。
この沈黙の時間をつくることも、傾聴のスキルの1つなのです。
この沈黙の時間は、生徒が思考を膨らませている時間です。
傾聴の目的を思い出してください。
生徒に気持ちよく話してもらえる空気をつくることです。
生徒が答えようとしている時に先生が口をはさんでしまうと、
気持ちよく話せる空気を壊してしまうかもしれません。
例えば、
「今回のテスト、自分ではどうだった?」
「うーん……」
ここで、すぐに、
「数学は良かったよね?」
と続けない。
少し待つ。
すると、
「数学は良かったんですけど、英語が思ったより取れなくて……」
と、生徒自身の言葉が出てくるかもしれません。
この数秒を待てるかどうかで、生徒から出てくる情報は大きく変わります。
先生にとっては少し長く感じる沈黙でも、生徒にとっては「考えている時間」であることがあります。
いつもよりも5秒だけ長く待つ意識をしていきましょう。
相づちは「聞いているよ」を伝えるために使う

傾聴をする上で、相づちはとても大切です。
日常のコミュニケーションで、ほとんどの方が相づちを使っていると思います。
教育コーチングにおいては、1回の会話の中で5種類以上の相づちを使う意識をします。
一辺倒で同じ相づちを繰り返していると、
「本当に聞いているのかな」
と生徒に思われてしまうことがあるからです。
例えば、
「うん」
「なるほど」
「そうなんだ」
「へえ」
「確かに」
「それで?」
「いいね~」
「そっか」
など、話の内容に合わせて変えていきます。
ただし、5種類使えばいいという話ではありません。
大切なのは、相づちによって、
「あなたの話をちゃんと受け取っています」
と伝えることです。
生徒が真剣な悩みを話しているのに、
「へえー!」
と明るく反応すれば、不自然です。
逆に、うれしかった出来事を話しているのに、
「なるほど……」
と暗い声で返されても、気持ちは合いません。
言葉だけでなく、表情や声のトーンも合わせながら、
「ちゃんと聴いている」
ことを伝えていきます。
傾聴のMPR|相手に合わせて安心感をつくる

僕たちの教育コーチング研修では、傾聴の具体的な技術として、MPRを紹介し、実践してもらいます。
MPRとは、
「ミラーリング」
「ペーシング」
「リフレイン」
この3つの頭文字を取ったものです。
ミラーリング
ミラーリングとは、鏡写しになるように生徒の動作や仕草を合わせることです。
例えば、手の位置、足の向き、机と体の距離感などを生徒に合わせます。
特に、対面で話すときに意識するスキルです。
例えば、生徒が少し前のめりになって話しているのに、先生だけが深く椅子にもたれ、腕を組んでいたら、距離を感じるかもしれません。
反対に、相手の姿勢や距離感に自然に合わせることで、
「この人とは話しやすい」
と感じてもらえることがあります。
もちろん、露骨にすべてを真似する必要はありません。
あくまで、生徒にとって心地よい距離感をつくるためのスキルです。
ペーシング
ペーシングは、生徒の話すスピードや声のトーンなどを合わせることです。
例えば、緊張して小さな声でゆっくり話している生徒に対して、
「それで!?どうだった!?」
と大きな声でテンポ良く返せば、圧を感じる可能性があります。
ゆっくり話す生徒には、少しゆっくり。
静かに話す生徒には、こちらも少し落ち着いたトーンで。
生徒のペースに合わせます。
先生が自分のテンポに生徒を引っ張るのではなく、まず先生が生徒のテンポへ入っていく。
これだけでも、話しやすさは変わります。
リフレイン
リフレインは、相手の言葉を繰り返す、いわゆるオウム返しです。
例えば、
「最近、部活と勉強の両立がきつくて」
と言われたら、
「そっかー、両立がきついんだね」
と返します。
「今回のテスト、本当に悔しかったです」
と言われたら、
「うんうん、悔しかったよね」
と返す。
とてもシンプルです。
生徒からすると、自分が伝えたかった言葉をそのまま返してもらうことで、
「ちゃんと受け取ってくれた」
と感じてくれます。
質問を追加しなくても、リフレインしたあとに少し待つだけで、生徒が続きを話してくれるようになっていきます。
ここまでくると、しっかり対話ができている状態で、生徒からの発言がどんどん増えてきます。
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話が長くなったら「要約する」

生徒がたくさん話してくれることは、とても良いことです。
ただ、話している本人も、途中から、
「自分が何を言いたかったのか分からなくなってきた」
という状態になることがあります。
生徒の発言量が多いときは、頭の整理が追いついていない可能性があります。
そんなときに使うのが「要約」です。
例えば、
「学校の課題も多いし、部活もあるし、家に帰ったら疲れてるし、でも受験勉強もしなきゃいけないし、それで親にも勉強しろって言われて……」
と生徒が話したとします。
先生が、
「部活も勉強も疲れるよね。やることが多すぎて、何から手をつければいいのか分からなくなっているように見えるよ」
とまとめて返す。
すると、
「そうなんです!まさにその状態です」
と、分かってくれる先生。という印象を与えることにつながります。
生徒が話したことを先生が整理して返すことで、生徒自身も自分の状況を理解しやすくなります。
傾聴は、ただ黙って話を聞き続けることではありません。
相手が自分自身を理解することを手伝うのも、傾聴です。
子どもとの対話では「感情」を切り取る

要約で大切なのが、生徒の発言の一部を「切り取る」方法です。
特に小中学生との対話では、感情を含んだ言葉を切り取ることが、効果的な傾聴につながります。
例えば、
「今回のテスト、数学は前より20点上がったんです。でも英語は全然ダメで、親にも英語を何とかしろって言われたんですけど、数学が上がったのはちょっとうれしかったです」
と話してくれたとします。
情報はたくさんあります。
数学が20点上がった。
英語はうまくいかなかった。
親から言われた。
その中で、
「数学が上がったのが、うれしかったんだね!」
と返してみる。
すると、
「はい。前回めちゃくちゃ悪かったので」
「自分でも今回は結構頑張ったと思います」
と、その生徒にとって大切な話が続きます。
全部を拾おうとする必要はありません。
今、この生徒が一番伝えたかったことは何なのか。
そこを意識して言葉を返します。
一番伝えたいことは、感情であることが多いです。
傾聴は「何も言わないこと」ではない

「傾聴してください」
と言われると、
先生は黙って、生徒の話を最後まで聞けばいい。
そう考える人もいます。
しかし、今回紹介した傾聴には、
相づちがあります。
ミラーリングがあります。
ペーシングがあります。
リフレインがあります。
要約があります。
つまり、傾聴とは受け身の行為ではありません。
「あなたの話を聴きたい」
という姿勢を、さまざまな方法で相手へ伝える積極的なコミュニケーションです。
そして、これらのスキルを使う目的は、テクニックを披露することではありません。
相手が安心して話せる空気をつくることが目的です。そしてそれが信頼関係の構築にも役立ちます。
生徒が、
「この先生なら話していい」
と思える。
少し失敗したことも話せる。
勉強をしていないことも正直に話せる。
本当は嫌だったことも話せる。
先生の期待とは違う考えも話せる。
そこまで安心できて、初めて本当の教育コーチングが始まります。
良い質問をする前に、良い聴き手になる

コーチングというと、「どんな質問をするか」に注目されがちです。
もちろん、質問は重要です。
ただ、僕たちが提供する教育コーチングでは、質問のスキルについても、傾聴と承認ができていることが前提です。
質問がうまくいかないと感じたら傾聴・承認へ立ち返ります。
この順番はとても大切です。
「何を質問すれば本音が出るんだろう」
と考える前に、
自分は最後まで話を聴いているだろうか。
相手より先に話し始めていないだろうか。
表情や声の変化を見ているだろうか。
相づちが単調になっていないだろうか。
相手のペースに合わせられているだろうか。
まず、ここを振り返る。
生徒が話してくれないとき、その原因が生徒側にあるとは限りません。
先生の「聴き方」が変わったことで、今まで、
「別に」
「普通です」
「分かりません」
で終わっていた生徒が、少しずつ自分のことを話してくれるようになってきます。
傾聴とは、生徒から情報を集めるための技術ではありません。
生徒が、
「ここなら自分のことを話しても大丈夫」
と思える環境をつくる技術です。
そして、その安心感の先に、本音を話せる関係が生まれます。
教育コーチングは、先生が話すことから始まるのではありません。
まず、生徒を聴くことから始まります。
※強引な勧誘は一切ございません
