第9章:生徒の成長をもう一歩進める「フィードバック」のスキル | 教育コーチングで必要な2つのスキル

いつもご覧いただきありがとうございます。
コーチングですべての中高生に選択肢を与える会社、合同会社ドドド代表の沖津です。
学習塾経営をしながら、全国の学習塾の講師や学校の教員の方々を対象に、コーチング研修をしています。
フィードバックという言葉、ビジネスの場面で多く使われています。しかし、コーチングにおけるフィードバックは、少し意味合いが異なります。生徒に気付きを与えるフィードバックと、一般的なコーチングではやってはいけないとされているスキルを紹介します。
この記事で分かること
・フィードバックとは
・教育現場だから必要なリクエストのスキル
・Iメッセージという問いかけ
・傾聴と承認、質問のスキルとのつながり
※強引な勧誘は一切ございません
生徒との面談で、
「○○さんはどう思う?」
「次は何をしたらいいと思う?」
と質問する。
生徒の話を最後まで聴く。
できたことや変化を承認する。
このような、ここまでの記事で紹介してきた傾聴・承認・質問だけでも、生徒との対話は大きく変わります。
ただ、実際の教育現場では、
「生徒自身では気づいていないことを、先生から伝えた方がいい」
という場面があります。
また、
「本人から答えが出てくるのを待つより、先生から1つ提案した方が次の行動につながる」
という場面もあります。
そんなときに使うのが、
「フィードバック」
と
「リクエスト」
というスキルです。
一般的なコーチングにおいては、リクエストのスキルは原則使ってはいけないとされています。
それは、答えはすべて本人が持っている。ということが前提だからです。
しかし教育の場面においては、
本人ではなく、先生が答えを持っている場面も多く存在します。
ただ質問して待つだけではなく、先生だから見えるものを伝える。
必要であれば、生徒の行動を一歩先へ進める提案をする。
この2つを上手に使えるようになると、教育コーチングの幅はさらに広がります。
フィードバックとは「先生が感じたことを伝えること」

教育コーチングにおけるフィードバックは、
「相手に対して感じたことを、そのまま伝えること」
としています。
例えば、面談をしている生徒が、
「別に、不安はないです」
と言ったとします。
でも、先生から見ると、普段より声が小さい。
目線も下がっている。
表情も少し暗い。
そんなとき、
「大丈夫って言っているから大丈夫なんだな」
で終わるのではなく、
「大丈夫って話してくれているけど、今日はいつもより少し表情が暗いように感じるよ」
と伝えてみる。
これがフィードバックです。
先生が、
「あなたは不安です」
と決めつけているわけではありません。
あくまで、
「僕にはこう見えた」
「僕はこう感じた」
という事実だけを生徒へ返しています。
すると生徒が、
「実はちょっとだけ不安で……」
と話し始めることもあります。
先生には見えているけれど、生徒自身はまだ気づいていない。
そんなことを言葉にして返すことが、フィードバックの大きな役割です。
フィードバックと「評価」は違う

フィードバックをするときに注意したいのは、先生による評価にしないことです。
例えば、
「最近やる気ないよね」
と言われたら、生徒はどう感じるでしょうか。
これは先生が生徒を「やる気がない」と評価しています。
一方で、
「先週より、今日は少し声が小さいように感じるよ」
であれば、先生が感じ取った変化を伝えています。
あるいは、
「最近態度悪いよ」
ではなく、
「前回より話すときに目線が下がっているように感じる」
と伝える。
フィードバックは、
「あなたはこういう人だ」
と判断するためのものではありません。
今、その瞬間に先生が受け取ったものを相手へ返すためのものです。
フィードバックでは、生徒の変化や感情を言葉にして伝えるため、表情や雰囲気の変化を敏感に感じ取ることがとても大切です。
だからこそ、第5記事で扱った傾聴ともつながっています。
相手をよく見ていなければ、良いフィードバックはできません。
また、ビジネスの場面におけるフィードバックとも意味合いは異なります。
ビジネスの場面におけるフィードバックは、どちらかというと評価や意見を伝えることです。
それとはまったく違うことなので、区別をしましょう。
生徒自身が気づいていない「変化」を伝える

フィードバックで特に大切なのが、生徒の変化を伝えることです。
人は、自分の変化には気づきにくいです。これは生徒だけではなく、僕たち大人もです。
だから先生が、その変化を言葉にします。
例えば、入塾したばかりの生徒がいたとします。
最初の頃は、
「分かりません」
「別に」
と短くしか答えてくれなかった。
でも、1か月後の面談では、
「数学はもう少しこうした方がいいと思っています」
と、自分から話してくれるようになった。
先生からすれば、その変化はよく分かります。
でも、生徒本人は気づいていないかもしれません。
そんなとき、
「最初の面談では結構緊張している感じだったけど、今日は自分の考えをかなり話してくれるようになったね」
と伝える
あるいは、
「前は勉強の話になると『分からない』って答えることが多かったけど、最近は自分から考えて話してくれることが増えたように感じるよ」
と伝える。
この言葉によって、生徒は、
「自分、少し変わってるんだ」
と初めて気づくようになります。
成績だけではない。
勉強時間だけでもない。
生徒自身の小さな変化を見つけて伝える。
これも、教育者だからできる大切な支援です。
言葉と表情が違うときこそフィードバック

人の感情は、言葉だけに出るわけではありません。
声のトーン、声の強さ、表情などから感じる雰囲気を伝えることもフィードバックです。
特に、言葉はポジティブなのに雰囲気がネガティブな場合には、その違いを伝えることが大切です。
例えば、
「今は勉強、大丈夫です。特に不安はありません。」
と言っている。
でも、声は小さく、表情も少し硬い。
そこで、
「言葉では大丈夫って言ってるけど、表情はちょっと不安そうにも見えるよ」
と伝える。
すると、
「まあ……ちょっとだけ不安ではあります」
と、本当の気持ちが出てくるかもしれません。
先生が答えを決めつけるのではなく、
「僕にはこう見えたけど、実際はどう?」
と返してあげる。
フィードバックは、生徒の本音を引き出す入口にもなります。
ネガティブなフィードバックも必要

フィードバックというと、
「良かったところを伝える」
というイメージを持つ人もいるかもしれません。
ですが教育コーチングにおけるフィードバックは、
ポジティブな面だけではなく、ネガティブな面もフィードバックすることを大切にしています。
例えば、
「今日は前回より少し集中しづらそうに見える」
「昨日話したときより、不安を抱えているように感じる」
というフィードバックもあります。
生徒にとって耳の痛い内容だからといって、すべて避ける必要はありません。
ただし、
「お前最近ダメだぞ」
と評価するのとは違います。
今の状態を、先生が感じ取った範囲で伝える。
ポジティブ・ネガティブの両方を伝えた場合、最後はポジティブなフィードバックで終わらせ、次の行動へつながる準備を整えるようにしましょう。
大切なのは、
「悪いところを指摘する」
ことではありません。
生徒が自分自身をより正確に理解し、次へ進めるようにすることです。
フィードバックとリフレクション

教育現場では「振り返り」という言葉をよく使います。
そして、フィードバックと似た言葉として「リフレクション」というものもあります。
フィードバックは、相手に対して振り返りを与えるもの。
リフレクションは、自分自身に対して振り返りを行うものです。
例えば先生から、
「最近、前より自分から質問できるようになったように感じるよ」
と伝えるのはフィードバック。
生徒自身が、
「前までは分からなくても聞かなかったけど、最近は質問できているな」
と自分を振り返るのがリフレクションです。
この2つは、両方が大切です。
先生のフィードバックをきっかけに、
「自分ではどう思う?」
と聞く。
すると、生徒自身の振り返りが始まります。
先生が気づきを与え、その気づきを本人自身がさらに深めていく。
フィードバックは、そこで終わらせるのではなく、対話の入口として使うこともできます。
※強引な勧誘は一切ございません
一般的なコーチングでは禁止されているスキル

もう1つのスキルが「リクエスト」です。
リクエストとは、
「生徒に提案をすること」
です。
一般的なコーチングでは、相手自身の気づきを引き出すことを重視するため、原則としてリクエストをしてはいけません。
しかし教育コーチングでは、子どもは大人に比べて持っている知識や経験が少なく、自分の中だけから答えを出せない場合があります。
そのため、先生からリクエストすることで生徒の成長を促す場面があります。
例えば、
「次のテストまでに何ができそう?」
と聞いたとします。
生徒から、
「英単語をやります」
「学校のワークをやります」
という答えが出た。
でも先生から見ると、
「この生徒なら、もう少しできそうだな」
と思うことがあると思います。
そんなとき、
「1つ僕から提案してもいい?」
と断りを入れて、
「今週はワークを1周だけじゃなくて、間違えた問題だけもう一度解いてみるのはどう?」
と伝える。
これがリクエストです。
生徒から答えを引き出すことだけにこだわらず、先生の知識や経験も使って一歩先へ進んでもらう。
教育だからこそ必要になる関わりです。
この際、傾聴や承認のスキルを怠らないように注意しましょう。
リクエストは「指示」とは違う

ただし、
「これやって」
「絶対これをやりなさい」
と一方的に伝えるのは、リクエストのスキルとは違います。
リクエストは、生徒の思考に入っていく行為です。
そのため研修では、急に提案せず、必ず断りを入れてからリクエストすることを大切にしています。
例えば、
「1つ思ったことを伝えてもいい?」
「僕から1個提案してもいいかな?」
と確認する。
この一言があるだけで、生徒は、
「これから先生の意見を聞く」
という準備ができます。
先生からすれば小さな違いかもしれません。
でも、生徒からすると、
「自分の考えを無視して決められた」
のか、
「自分の考えを聴いてもらったうえで提案された」
のかでは、大きく違います。
教育コーチングでは、生徒の意思を奪わずに先生の考えを伝えることが重要です
ただ、リクエストのスキルを使う時は、十分に信頼関係が構築された状態が必要です。
信頼関係が薄いまま、先生からのリクエストを重ねると逆効果になる可能性があります。
例えば初めて会った先生から、
「毎日あと1時間勉強した方がいいよ」
と言われるのと、
ずっと自分のことを見てくれている先生から、
「今の君なら、あと30分増やしてもできると思うんだけど、一回やってみない?」
と言われる。
同じような提案でも、受け取り方は変わります。
だからこそ、リクエストより先に傾聴と承認があります。
話を聴く。
今の状態を認める。
信頼関係をつくる。
その土台の上で初めて、リクエストが生きます。
リクエストを使いすぎない

リクエストは便利です。
先生の方が受験について詳しいし、先生の方が勉強方法を知っている。
先生の方が、何をしたら成績が上がるか分かっている。
だから、つい、
「あれをやろう」
「これもやろう」
「次はこれをやって」
と提案したくなります。
でも、それを続けると、生徒自身が考える必要がなくなります。
思い出してください。
リクエストは、一般的なコーチングにおいてはやってはいけないことです。
リクエストを続けると、コーチングの目的である「気づきを引き出す」ことからどんどん離れていってしまうからです。
これは教育コーチングにおいてもそうです。
リクエストが必要な場面はありますが、最終的なスキルとして取っておきましょう。
ここぞという時、あと一歩だけ生徒の行動を加速させたい。
という時に、単発で活用します。
まず待つ。
まず聞く。
ず本人に考えてもらう。
それでも答えが出ない。
あるいは、先生だからこそ提案できる選択肢がある。
そんなときにリクエストする。
リクエストは「先生が話すためのスキル」ではなく、生徒の可能性をもう1つ広げるためのスキルです。
そして、いざリクエストするときには、曖昧な伝え方を避けます。
例えば、
「もうちょっと英語を頑張ってみたら?」
では、何をすればいいのか分かりません。
それより、
「今週だけ、英単語を毎日30個ずつ復習してみない?」
と伝える。
具体的な行動が分かります。
あるいは、
「自習もっと来れない?」
ではなく、
「今週は火曜と木曜の2日、自習に来てみるのはどう?」
とする。
リクエストした結果、生徒が何をすればいいのか想像できる状態をつくります。
Iメッセージで「押し付け」を減らす

リクエストでは、先生の提案が押し付けにならないようにする工夫も必要です。
そのために、「Iメッセージ(アイメッセージ)」が効果的です。
Iメッセージとは、「1人称(僕・私)」を主語にした伝え方です。
例えば、
「君はあと3ページやるべきだよ」
ではなく、
「あと3ページできたら、(僕は)嬉しいな」
と伝える。
「君なら絶対できる」
ではなく、
「僕は○○君ならできると思ってるよ」
と伝える。
「あなたはこうしなさい」
ではなく、
「私はこう思うよ」
と伝える。
先生の考えはしっかり伝える。
でも、最後に決める余白は生徒側に残す。
教育コーチングでは、このバランスが大切です。
時間がない場面では、リクエストが有効になる

コーチングでは、生徒自身が答えを見つけるまで待つことも大切です。
ただ、教育現場ではいつでも十分な時間があるとは限りません。
入試まであと2週間。
テストまであと3日。
面談時間が10分しかない。
そんな状況があります。
このように時間が限られている場面では、リクエストによって生徒の行動を明確にすることが効果的です。
例えば、定期テストが3日後なのに、
「これからどうしたら点数上がると思う?」
と延々考えてもらうより、
「残り3日なら、僕はこの2単元を優先した方がいいかな。1回その順番でやってみない?」
と伝えた方がいい場面が多いです。
これは第4記事で扱った、ティーチングとコーチングの使い分けにもつながります。
教育の目的は、
「先生がコーチングを使ったかどうか」
ではありません。
生徒が成長することです。
その目的から逆算して、必要な関わりを選びます。
「聴く→認める→問いかける→伝える→提案する」

ここまで紹介してきたスキルは、それぞれ独立しているわけではありません。
実際の面談では、全部がつながっています。
例えば、生徒が、
「最近、勉強があんまりできてなくて」
と言ったとします。
まず、
「最近できてないんだね」
と受け止める。
傾聴と承認です。
「自分では何が原因だと思う?」
と質問する。
「家に帰ってスマホ見ちゃいます」
と答える。
先生は話している様子を見て、
「前より自分から原因を話せるようになったように感じるよ」
とフィードバックする。
そして、
「今日から何かできそうなことある?」
と聞く。
「スマホを別の部屋に置きます」
と答える。
さらに先生から、
「いいね。1個だけ僕から提案してもいい?」
と断って、
「塾から帰ったら、最初の30分だけスマホを普段使わない部屋に置くのはどう?」
とリクエストする。
この流れです。
傾聴。
承認。
質問。
フィードバック。
リクエスト。
全部を毎回使う必要はありません。
生徒の状態に合わせて、必要なものを選びます。
教育コーチングを学ぶと、
「先生はなるべく話さない方がいい」
「全部、生徒から引き出した方がいい」
と思ってしまうことがあります。
でも、教育現場では、先生だから見えるものがあります。
ずっとその生徒を見てきたから分かる変化。
本人がまだ知らない勉強方法。
受験指導をしてきたからこそ提案できる選択肢。
それらをすべて隠して、
「君はどう思う?」
と聞き続けることが、必ずしも生徒のためになるとは限りません。
生徒が自分では気づいていないことがあるなら、フィードバックする。
生徒の中に選択肢がないなら、必要に応じてリクエストする。
ただし、決めつけない。
押し付けない。
使いすぎない。
傾聴・承認・質問という土台の上に、フィードバックとリクエストを加える。
それによって、
「生徒自身が考えること」
と
「先生の知識や経験を生かすこと」
の両方を実現できます。
教育コーチングは、生徒から答えを引き出すだけのコミュニケーションではありません。
生徒が自分で考えながらも、必要なときには先生の力を借り、一歩ずつ前へ進めるようにする指導する。
その最後の一歩を後押しするのが、
フィードバックとリクエストという2つのスキルです。
※強引な勧誘は一切ございません
